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不整脈

I.不整脈とは

不整脈とは、心臓の拍動(脈)のリズムが一定でなくなる状態の総称です。健康な心臓は、規則正しいリズムで電気信号が伝わることで、全身に血液を送り出しています。しかし、この電気信号の発生や伝導に異常が生じると、脈が速くなったり(頻脈)、遅くなったり(徐脈)、または不規則になったりします。これが不整脈です。不整脈には様々な種類があり、心配のないものから、放置すると命に関わる危険なものまで多岐にわたります。

II.不整脈の初期症状

不整脈の症状は、その種類や程度、患者さんの状態によって異なります。代表的な初期症状には以下のようなものがあります。

  • 動悸:「ドキドキする」「心臓が飛び出しそう」「脈が飛ぶ感じ」などと表現されます。
  • 息切れ: 普段は何でもないような動作(階段を上るなど)で息が苦しくなる
  • めまい・立ちくらみ: 急にクラっとしたり、気が遠くなるような感覚。
  • 失神: 一時的に意識を失う。
  • 胸の不快感・痛み: 胸が締め付けられる感じ、圧迫感、痛みなど。
  • 疲労感・だるさ: 特に原因が思い当たらないのに、体がだるく疲れやすい。
  • むくみ: 特に足や顔に出やすいです

ただし、自覚症状が全くないまま健康診断などで偶然発見されることも少なくありません。不整脈は人によって自覚症状の程度が異なりますので、異常を感じた場合は医師に相談してください。

III.不整脈の予後

不整脈の予後は、その種類、重症度、原因となる心疾患の有無、そして適切な治療が行われるかどうかによって大きく左右されます。

  • 心配のない不整脈:期外収縮など、自覚症状が軽いか無症状で、心臓に基礎的な病気がなければ、多くの場合、生命に直接的な危険はなく、経過観察で済むこともあります。
  • 注意が必要な不整脈: 症状が強い場合や、心房細動のように脳梗塞のリスクを高める不整脈、または心室頻拍や心室細動といった命に関わる可能性のある危険な不整脈は、積極的な治療と管理が必要です。

早期に適切な診断を受け、必要な治療を開始することで、症状の改善や合併症の予防、生命予後の改善が期待できます。自己判断せずに、まずは専門医にご相談ください。

IV.不整脈の原因

不整脈が起こる原因は様々です。主なものとしては以下が挙げられます。

  • 心臓の病気:
    • 心筋梗塞、狭心症(虚血性心疾患)
    • 心不全
    • 心臓弁膜症
    • 心筋症
    • 先天性心疾患
  • 心臓以外の病気:
    • 高血圧
    • 甲状腺機能亢進症・低下症
    • 肺疾患(肺気腫、肺炎など)
    • 睡眠時無呼吸症候群
    • 電解質異常(カリウム、マグネシウムなど)
  • 生活習慣:
    • ストレス
    • 過労、睡眠不足
    • 喫煙
    • アルコールの過剰摂取
    • カフェインの過剰摂取(コーヒー、紅茶、栄養ドリンクなど)
  • その他:
    • 加齢
    • 薬剤の副作用(一部の降圧薬、気管支拡張薬、抗うつ薬など)
    • 遺伝的要因
    • 原因不明(特発性)

以上のように複数の要因が絡み合って不整脈を引き起こすこともあります。

V.どういう人がなる(リスク因子)

以下のような方は、不整脈を発症するリスクが高いと考えられています。

  • 高齢の方:加齢とともに心臓の機能が変化し、不整脈が起こりやすくなります。
  • 心臓病の既往がある方・治療中の方:心筋梗塞、心不全、弁膜症など。
  • 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病をお持ちの方:動脈硬化を進行させ、心臓に負担をかけるため。
  • 甲状腺機能亢進症の方:甲状腺ホルモンが心臓を過剰に刺激するため。
  • 睡眠時無呼吸症候群の方:睡眠中の低酸素状態や交感神経の亢進が不整脈を誘発します。
  • 喫煙習慣のある方:タバコに含まれる有害物質が心臓や血管に悪影響を与えます。
  • アルコールを多量に摂取する習慣のある方:過度な飲酒は心臓に負担をかけ、特定の不整脈(心房細動など)のリスクを高めます。
  • 慢性的なストレスや疲労を抱えている方:自律神経の乱れが不整脈を引き起こすことがあります。
  • 家族に不整脈の方がいる方:遺伝的な要因が関与する場合もあります。

これらのリスク因子に複数当てはまる場合は、特に注意が必要です。

VI.検査方法

不整脈の診断や原因究明のためには、以下のような検査が行われます。

  1. 問診・診察:
    • 症状(いつから、どんな時に、どのくらいの頻度で、など)
    • 既往歴(心臓病、高血圧、糖尿病、甲状腺疾患など)
    • 家族歴
    • 生活習慣(喫煙、飲酒、カフェイン摂取、ストレスの状況など)
    • 服用中の薬
    • 聴診(心音の異常や雑音の有無を確認)
    • 脈拍測定
  2. 心電図検査:
    • 安静時12誘導心電図:最も基本的な検査で、数分間の心臓の電気活動を記録します。不整脈の種類や心筋虚血の有無などを評価します。
    • ホルター心電図(24時間心電図):胸に電極を貼り、小型の記録器を携帯して24時間日常生活中の心電図を記録します。時々しか現れない不整脈や、症状との関連性を調べるのに有効です。
    • 運動負荷心電図: 自転車エルゴメーターやトレッドミル(ランニングマシン)で運動しながら心電図を記録し、運動によって誘発される不整脈や狭心症の評価を行います。
    • 携帯型心電計・イベント心電計: 動悸などの症状が出た時に患者さん自身が記録する装置です。
  3. 心エコー検査(心臓超音波検査): 超音波を使って心臓の形、大きさ、壁の厚さ、動き、弁の状態などをリアルタイムで観察します。不整脈の原因となる心臓の器質的な病気(弁膜症、心筋症、心不全など)の有無を調べます。
  4. 血液検査:
    • 貧血の有無
    • 甲状腺ホルモン値(甲状腺機能異常の確認)
    • 電解質(カリウム、マグネシウムなど)のバランス
    • 心筋逸脱酵素(クレアチンキナーゼ(CK)やトロポニン(TnT、TnI)など)⇒心筋梗塞の確認
    • BNP(心不全の指標)
  5. 胸部X線検査: 心臓の大きさや形、肺の状態(うっ血の有無など)を確認します。
  6. 電気生理学的検査(EPS): 足の付け根などからカテーテルを心臓内に挿入し、心臓の電気現象を詳しく調べる専門的な検査です。不整脈の診断を確定したり、カテーテルアブレーション治療の適応を判断したりする際に行われます。入院が必要です。

これらの検査を組み合わせて、不整脈の種類、重症度、原因を特定し、最適な治療方針を決定します。

VII.治療方法

不整脈の治療は、その種類、原因、症状の程度、患者さんの状態などを総合的に判断して決定されます。必ずしも全ての不整脈に治療が必要なわけではありません。

  1. 生活習慣の改善:
    • 禁煙、節酒
    • バランスの取れた食事(減塩、適切なカロリー摂取)
    • 適度な運動(医師の指示に従う)
    • 十分な睡眠、休養
    • ストレスマネジメント
    • カフェイン摂取の制限 原因となる生活習慣がある場合は、まずその改善に取り組みます。
  2. 薬物療法:
    • 抗不整脈薬:: 脈の乱れを整えたり、異常な電気興奮を抑えたりする薬です。不整脈の種類に応じて使い分けられます。
    • 抗凝固薬: 心房細動など、血栓ができやすい不整脈の場合に、脳梗塞などの血栓塞栓症を予防するために用いられます(ワーファリン、DOACなど)。
    • レートコントロール薬: 頻脈性の不整脈(心房細動など)で、心拍数を適切な範囲にコントロールする薬です(β遮断薬、カルシウム拮抗薬など)。
    • その他 原因疾患(高血圧、心不全、甲状腺疾患など)に対する治療薬。
  3. カテーテルアブレーション(心筋焼灼術): 足の付け根や首の血管から細いカテーテルを心臓内に挿入し、不整脈の原因となっている異常な電気興奮の発生部位を高周波電流などで焼灼(または冷凍凝固)する治療法です。根治が期待できる不整脈(発作性上室性頻拍、心房粗動、一部の心房細動や心室期外収縮など)に対して行われます。
  4. ペースメーカー治療: 徐脈性の不整脈(洞不全症候群、房室ブロックなど)で、脈が遅くなりすぎて失神やめまい、心不全などの症状が出る場合に、胸部の皮下に小型のペースメーカー本体を植え込み、心臓に電気刺激を送って適切な脈拍を維持する治療法です。
  5. 植え込み型除細動器(ICD): 心室頻拍や心室細動といった致死性の危険な不整脈が起こるリスクが高い場合に、突然死を予防するために植え込まれる装置です。不整脈を感知すると、電気ショックを与えて正常な脈に戻します。
  6. 原因疾患の治療: 不整脈の原因となっている心臓病や甲状腺疾患などがあれば、その治療を優先的または並行して行います。

治療法は一つとは限らず、いくつかの治療法を組み合わせることもあります。医師とよく相談し、ご自身に合った治療法を選択することが大切です。

VIII.当院の対応可否

当院では、不整脈が疑われる患者様に対して、以下の対応が可能です。

  • 専門的な問診と診察: 症状や既往歴などを詳しく伺い、身体所見を丁寧に行います。
  • 各種検査の実施: 安静時心電図、ホルター心電図、心エコー検査、血液検査などを実施し、不整脈の診断と原因検索を行います。
  • 診断と初期治療: 検査結果に基づき、不整脈の診断を行い、生活指導や薬物療法を中心とした初期治療を行います。
  • 定期的な経過観察と管理: 治療効果の判定や副作用のチェック、病状の変化に応じた治療調整など、継続的なフォローアップを行います。
  • 専門医療機関へのご紹介: カテーテルアブレーションやペースメーカー治療、植え込み型除細動器(ICD)などの高度な治療が必要と判断された場合や、より専門的な検査(電気生理学的検査など)が必要な場合には、適切なタイミングで責任をもって連携先の高度医療機関へご紹介いたします。ご紹介後も、可能な範囲で連携を取りながらフォローアップをさせていただきます。

「もしかしたら不整脈かも…」とご不安な方、健康診断で不整脈を指摘された方は、どうぞお気軽に当院にご相談ください。

Ⅸ.Q&A

Q1.不整脈は治りますか?

A1.不整脈の種類や原因によって異なります。

  • 根治が期待できる不整脈: カテーテルアブレーション治療が有効な一部の不整脈(発作性上室性頻拍、心房粗動、一部の心房細動など)は、治療により根治が期待できます。
  • コントロールできる不整脈: 薬物療法や生活習慣の改善により、症状を抑えたり、頻度を減らしたりして、日常生活に支障がないようにコントロールできる不整脈も多くあります。心房細動なども、完全に治すことは難しくても、心拍数をコントロールし、抗凝固薬で脳梗塞を予防することで、上手く付き合っていくことが可能です。
  • 原因疾患の治療で改善する不整脈: 甲状腺機能異常や電解質異常などが原因の場合、その治療によって不整脈が改善・消失することがあります。

医師とよく相談し、ご自身の不整脈のタイプと治療目標を理解することが大切です。

Q2.不整脈の薬はずっと飲み続けないといけませんか?

A2.これも不整脈の種類や状態によります。

  • 一時的な服用で済む場合: 原因がはっきりしており、その原因が取り除かれた場合(例えば、ストレスや睡眠不足が原因で、それが解消された場合など)や、カテーテルアブレーションで根治した場合などは、薬の服用を中止できることがあります。
  • 継続的な服用が必要な場合: 心房細動で脳梗塞予防のために抗凝固薬を服用する場合や、症状をコントロールするために抗不整脈薬が必要な場合など、長期的に薬を続ける必要があるケースも多いです。

自己判断で薬を中断したり量を調整したりせず、必ず医師の指示に従ってください。定期的な診察を受け、状態に応じて薬の必要性や種類、量を見直していくことが重要です。

 

Q3.日常生活で気をつけることは?(不整脈の予防と悪化防止) 

A3.下記に各項目でまとめています。ご参照ください。

  • バランスの取れた食事: 塩分・脂肪分を控えめに、野菜や魚を積極的に摂りましょう。
  • 適度な運動: ウォーキングなどの有酸素運動は心臓にも良い影響を与えますが、不整脈の種類によっては運動制限が必要な場合もあるため、医師に相談しましょう。
  • 禁煙: 喫煙は不整脈の大きなリスク因子です。
  • 節酒: 過度な飲酒は避けましょう。特に「ホリデーハート症候群」と呼ばれる、飲酒後に心房細動が起こるケースもあります。
  • 十分な睡眠と休息: 睡眠不足や過労は不整脈を誘発・悪化させることがあります。
  • ストレスを溜めない: 自分なりのリラックス方法を見つけ、ストレスと上手に付き合いましょう。
  • 体重管理: 肥満は高血圧や糖尿病のリスクを高め、心臓に負担をかけます。
  • カフェインの摂取量に注意: コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、過剰摂取すると不整脈を誘発することがあります。
  • 定期的な健康診断: 高血圧や糖尿病などの生活習慣病は不整脈のリスクを高めます。早期発見・早期治療が大切です。
  • 症状が出た時の対処: 動悸などの症状を感じたら、まずは安静にし、深呼吸を試みてください。症状が続く場合や、めまい、失神などを伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。

Q4不整脈とストレスの関係は?

A4.ストレスは自律神経のバランスを乱し、不整脈を引き起こしたり悪化させたりする大きな要因の一つです。

  • 交感神経の亢進: ストレスを感じると交感神経が活発になり、心拍数を増加させたり、心筋の興奮性を高めたりして、頻脈性の不整脈(期外収縮、心房細動など)を誘発しやすくなります。
  • 副交感神経の亢進: 逆に、一部の徐脈性の不整脈は、リラックス時や睡眠中など副交感神経が優位な時に起こりやすいこともあります。

ストレスを完全に避けることは難しいですが、趣味や運動、十分な休息などで上手にストレスをコントロールすることが、不整脈の管理においても重要です。

Q5.子供でも不整脈になりますか?

A5.はい、子供でも不整脈になることがあります。

  • 先天性心疾患に伴う不整脈: 生まれつき心臓に何らかの構造異常がある場合、それが原因で不整脈が起こることがあります。
  • 学校心臓検診で発見される不整脈: 期外収縮やWPW症候群などが比較的多く見つかります。多くは無症状で経過観察となることもありますが、中には治療が必要な場合もあります。
  • その他: 心筋炎や川崎病の後遺症として不整脈が出現することもあります。

子供の不整脈は、成人とは異なる特徴を持つこともあり、小児循環器専門医による適切な診断と管理が重要です。気になる症状がある場合や、検診で指摘された場合は、専門医にご相談ください。

Q6.不整脈を放置するとどうなりますか?

A6.不整脈の種類や程度によりますが、放置することで以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  • 症状の悪化・QOL(生活の質)の低下: 動悸や息切れ、めまいなどの症状が頻繁に起こるようになり、日常生活に支障をきたすことがあります。
  • 心機能の低下・心不全: 不整脈が長期間続くと、心臓に負担がかかり、心臓のポンプ機能が低下して心不全を引き起こすことがあります。
  • 血栓塞栓症(脳梗塞など): 特に心房細動では、心臓の中に血栓(血の塊)ができやすくなり、それが脳に飛んで脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。これは命に関わったり、重い後遺症を残したりする可能性があります。
  • 失神・突然死: 心室頻拍や心室細動といった危険な不整脈は、適切な治療を行わないと失神や突然死につながる可能性があります。

自覚症状が軽い、あるいは無症状であっても、検査で異常を指摘された場合は、自己判断せずに必ず医師の指示に従い、適切な検査や治療を受けることが重要です。

 

【おわりに】

この記事が、皆様の不整脈に対する理解の一助となれば幸いです。 ご心配な点がございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

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